旅のかげろう vol1
- 2017/03/05
- 15:02
旅には、そのひと時に一気に輝き、そして消えていく
まるで陽炎のように、激しく心を揺さぶられる瞬間がある。
その瞬間を味わいたくて私はまた旅に出るのだと思う。
旅のかげろうと題して、当ブログで不定期に連載をします。
記念すべき第一回は、先日に仕事で行った熊本でのお話。
その時は出張で前日から飛行機で熊本に入っていて、
午後の打ち合わせまでの合間、少し時間があったので熊本市内を少し観光しようという話になり、近くにあった出水神社へと車で足を運んだ。
出水神社とは代々の肥後藩主である細川氏を祀っている神社で、文化人として有名だった有名な細川藤孝や、明智光秀の三女、細川ガラシャなども祀られている。
境内にある水前寺成趣園が見事だと聞きつけ、機会があればぜひ見にいきたいと思っていたのだが、3回目の訪熊にしてようやく足を運ぶこととなった。
境内は桃山式の回遊式庭園となっており、コンコンと湧く澄み切った水と、キラキラと輝く小魚の群れに目を癒される。
奥に見える丘のようなところは富士山を模しているのだそう。
代々の藩主が日々の執務を離れ、今の自分と同じようにここを一周するのを想像し、
さぞ優美なひと時であったろうと、時の流れに一人悦に浸る。
せかせかと動く仕事の合間に気持ちのいい散策ができたと帰る前に
せっかくだからと拝殿の方にもお参りに行き、御朱印をもらいに社務所へ。
社務所にいたのは三つ編みにして下げた栗色の髪と瑠璃色の大きな目をした巫女さん。
あまり神社では見られないような可愛らしい巫女さんにドキッとしたのを思えている。
御朱印をとお願いをしたら、その巫女さんが直接筆を取ってくれた。
その可愛らしい外見からは想像もできないほどゆっくりと綺麗な字を描く筆先にしばし目を奪われる。
その筆先にドキドキしながら見とれていたら、数十秒ほどが数分のような、そんな感覚を覚えた。
ふわふわとした気分で支払いを済ませ、御朱印を受け取り境内を後にしようとしたら
鳥居をくぐる頃、後ろから「ザッザッ」っと、
砂利をかき分けて小走りでかき分けてくる音が。
まさかなと思いながら振り向くと、そこには先ほどの巫女さんがこちらにくるではないか。
「すいません、御朱印の代金に1円が挟まっていたので…」と、1円を渡しに来てくれたのだった。
御朱印の代金なんてお賽銭の類なのだから1円くらいそのままにしておいてもらって構わないのにと思いながら、その1円を手渡しで受け取った。
こういう時、なんて言えばいいのだろうと思いながら、とっさに出た言葉が「わざわざすいません」と、洒落のかけらもない言葉で返してしまう自分がいた。
そしてまた小走りで社務所に戻っていく巫女さんの後ろを見送った。
妙に清々しい気分で境内を後にしたのは、決して美しい庭園のせいではないだろうなと。
そんなことを思いながら午後の仕事に戻ったのでした。
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